2008/08/23

計算尺にあこがれる

こんな話をすると歳がバレるのだけれど、教科書に計算尺が載っていたんですよ。今の教科書にはきっとないと思うのだけど。
でもね、もう使わないからって感じで取り上げられなくて、使い方がわからない。なので、ちょっとだけ悶々。
これも歳バレだけど、「謎の円盤UFO」(さすがに再放送だけどね)で、ストレイカー司令官が計算尺を使うシーンがなんかカッコいい。そのカッコよさはトム・ハンクス主演『アポロ13』のジーン・クランツ地上管制官に通じる……若いかたはどっちの作品も知らないか。クランツが計算尺を使うわけでもないし。

計算尺は手動の計算機で、ソロバンも同じ手動計算機だとしたとき、計算尺はアナログ計算機で、ソロバンはデジタル計算機。
時計はアナログが先にあって、あとからデジタルができた。
ソロバンと計算尺ではデジタルのソロバンのほうが先に生まれた。
これは偶然じゃない。デジタルの本来の意味あいに「指折り数える」というニュアンスがある。人類の原初的な計算は指折り数えることから始まっただろうと思えば、デジタルが先行するのは必然。

実はアナログのほうが難しい。だから計算尺を使えるのはカッコいい。

時計は機械原理的な事情でデジタルよりアナログが先行して成立したけれど、子どもが時計を読みとることを考えてほしい。デジタルよりアナログのほうが難しい。原理がわからなければアナログを読みとることはできない。
これは計算尺とソロバンでも云える。アナログ手動計算機である計算尺のほうがソロバンより難しい。
ソロバンの原理は指折り数える延長だけれど、計算尺でかけ算を実現するには“対数”の原理が必要になる。ほら、“対数”でシリ込みしたでしょ?

アナログの難しさは原理の理解を要請することに起因するならば、デジタルのわかりやすさは何に起因するのだろう?
それはデジタルが計算精度上の最小単位を持つことではないかと思う。だから指折り数えることもできる。
精度の下限があることを容認すれば、デジタルなら「計算の方法=アルゴリズム」によって“あらゆる計算”が可能になる。アナログではそうはいかない。
計算尺においてその原理はかたちに置き換えられる。キィワードは“尺”だ。本質において計算尺は「ものさし」なのだ。直線的な形状こそが実体で、原理は「目盛りの振り方」に帰着する。その振り方は直接目で見ることができる。
アナログでは「計算の方法」がかたちに置き換えられている。その意味において、精度上の下限は制約されない。
アナログは計算結果の無限を許容するが、デジタルは拒絶する。
しかしながら、かたちに拘束されたアナログは“あらゆる計算”を実行できない。そのかたちが特定の計算方法を既定する。
得られる計算の結果が無限、結果が有限でも可能な計算方法は無限、このふたつは実際的な経験上、両立しないらしい。

アナログな計算尺のカッコよさにあこがれる。
一方のデジタルは結果を出すための方法、やらなければならない現実的な努力目標。カッコよさというより地道な堅実さ。
デジタル計算機は計算方法において、すべてのアナログ計算機を模倣できる。精度が有限なのでもちろん一致はしないけれど。

アナログ計算機のことは忘れてしまう?
では、アナログ時計を読めなくてもいい?
今の日常生活、読めなくても不便はないでしょう。ケータイをはじめ時刻のデジタル表示はどこにでもあるから。
それでもアナログ時計は読めたほうがいい?
読めたほうがいいと思う理由はみなさん、それぞれいろいろあるでしょう。その、いろいろあるところが“アナログ”だと思うのです。

P.S.
昨年、ひさびさに腕時計を買いました。計算尺つきの腕時計があります。それを買おうか迷って、どういう場面で使うか考えました。
みんなで飲みに行って割り勘するとき……ぜんぜんカッコよくない。なのでやめました。

2 件のコメント:

柏春 さんのコメント...

デジタルっぽい火星の住人さんが、ちょっとアナログ派なのって意外だなぁと。

 この前、ご一緒した女の子も「私はアナログ派!」ってゆってました…。実は、けっこう気が合っていたのかもなぁと思いました。

 P.S.なるほど。新品だったのですね。すごい、ピカピカしている時計をされているなぁって思っていました。割り勘は…今時は、携帯の計算機能でしちゃうかもしれないですね。計算尺でも、小ネタになって面白い気もしないでもないですが。カッコよくきめるなら、暗算かもって思います。

MarsResident さんのコメント...

世のなかデジタル優位な感じなので、フォローも必要かな、と。デジタルには手軽さや利便性が確かにあるので。
なんでもデジタルで実現できちゃう時代なので、あえてアナログの技術でやったらどうなるかを考えるのも必要なのか、とも思ったり。
現代アートの作家のなかにはそういう意識のひとっているようですが。